MEDIA CENTER
学校図書館での電子書籍のニーズと課題(2)
電子図書館コラム2022.07.01
前回に引き続き、電子書籍に対するニーズやメリット・デメリットについてお話しします。
今回は、比較的ニーズの高い6つのジャンルについてお伝えします。電子図書館を導入した学校の状況をリアルにお伝えし、現在どのように活用されているのか、将来的にどのような活用方法が模索されているのかを共有できればと思います。
この内容は、私が以前に行ったインタビュー調査の結果に基づいています。2019年に電子図書館を導入している高等学校(中高一貫校を含む)10校を対象に、学校向け電子書籍の利用状況について尋ねました。詳細については、こちらからご覧いただけます。
3.教養・読み物
教養的な読み物は、非常にニーズの高いジャンルとなっています。このジャンルは、物事に対する理解力、創造力、問題解決能力、批判的思考力、文化的理解などを育むための有益なコンテンツとして、多くの学校で重要視されています。
例えば、歴史書は歴史的な背景の理解を深め、科学書では自然界の法則を学ぶことができます。哲学書や社会学書は多角的な視点で物事を考え、批判的に評価する力、異なる価値観を理解する力を養います。文学や芸術書は創造力を刺激し、ビジネス書では実践的な手法を教え、心理学書では人間関係や自己改善の方法を見つける手助けをします。それぞれの分野で得られる知識やスキルは、子どもたちの能力を伸ばすのに大いに役立ちます。
これらのコンテンツは信頼性が高く、学術書や専門書よりも易しく、雑学書よりも詳しい内容であるのが特徴です。読書の難易度も高くないため、教員が生徒や児童に推奨しやすく、生徒にとっても適した内容となっています。また、短時間で読めるため、本校では朝読書で読めるコンテンツとして重宝しています。
さらに、学校図書館で本を借りる際に心理的な抵抗を感じるようなコンテンツの場合、あえて電子書籍で購入することがあります。
例えば、自己探求、対人関係、恋愛、体や性、勉強に関する悩みなど、プライバシーを気にする内容は電子書籍であれば他人を気にせず読めるため、利用が増えています。紙書籍においても、内容をしっかり吟味し、利用者への配慮を行い、どのように提供・管理するかを慎重に考える必要があります。そのため、学校図書館担当者にとっても、電子書籍の方が選書しやすいというメリットがあるかもしれません。
4.学術・専門書
学術・専門書は、学校にとって必要不可欠なジャンルといえるでしょう。このジャンルは、小説や英語多読本と同じか、それ以上の需要があるといっても過言ではありません。しかし、現状では、学術・専門書の収集に力を入れていない学校が多いのが実情です。その理由としては、以下のようなデメリットが挙げられます。
– 探求学習に適したコンテンツが十分に提供されていない。
– 適切なコンテンツがあっても、高価格で予算の負担が大きい。
– 複数人で同時アクセスができないため、電子書籍の特性が活かされていない。
探究学習においては、学術・専門書を充実させる必要がありますが、提供されるコンテンツが不足しており、高価格で同時アクセスの制限もあるため、電子書籍を紙書籍並みに揃えるのは現実的に難しいと感じている学校が多いようです。本校も例外ではなく、現在は娯楽や教養的な読書には電子書籍を、探求学習や授業に必要なコンテンツには紙書籍を選んで収集しています。この件については、別のコラムで詳しく取り上げたいと思います。
また、参考文献としての信頼性や安定性に対する不安もあります。ライセンスの失効や販売停止により、以前利用できたコンテンツがアクセスできなくなる恐れがありますが、買い切りモデルや同時アクセス可能なコンテンツの増加により、徐々に改善されると期待しています。
価格に関しては、学校によって意見が分かれます。電子書籍の利便性や教育効果を実感できる場合には、多少の高価格も許容できるという意見もあります。また、著作権料や電子書籍化に伴う経費について、サービス向上のために避けられないという見方もあります。
一方で、安価になることで選書の精度が低下することを懸念する学校もあります。図書館のコレクションと同様に、電子図書館も質の高いコンテンツの確保が必要です。現在、高価格によって選書の精度が保たれているのは事実ですが(不本意ではありますが)、コストを抑えつつ充実したコレクションを維持する方法を模索することが重要です。
結局のところ、コストパフォーマンスに納得できるかどうかが重要であり、価格の低下を望んでいるわけではないものの、現在の価格が高過ぎるとの意見は共通しており、もう少し安価になることが期待されます。
5.事典・図鑑・辞書
事典・図鑑・辞書も、学校にとって必要不可欠なジャンルといえるでしょう。紙書籍では大きくてかさばり、重いため、持ち運びが不便です。そのため、書架に収まりきらない大型サイズや厚みのある本であっても、持ち運びが便利で収納スペースも取られず、写真が鮮明で美しく、画面の拡大も可能な電子書籍での購入を希望する学校が非常に多く見られます。
しかし、このジャンルは高価格な電子書籍の代表格とも言えます。カラー版でビジュアルが豊富で、専門性の高い情報が掲載されているため、資料的価値が高いものが多いです。そのため、通常の電子書籍が紙書籍の価格の2~3倍程度であるのに対し、4倍近い価格が設定されていることもあります。
探求学習でよく活用され、多様な種類があるため、コンテンツの充実を望む声もありますが、高価格であり、かつ複数人の同時アクセスができないとなると、電子書籍で揃えるのは学術・専門書よりもさらに難しい状況です。
6.進路・職業
進路や職業は、自己の生き方を考え、将来の夢や目標の選択・決定に欠かせない重要なジャンルであると学校では認識されています。しかし、優先順位の高いジャンルから選書していくと、進路・職業の関連資料はどうしても後回しになりがちです。
職業の詳細がしっかりと掲載されているコンテンツは不足しており、最新情報が求められる一方で、紙書籍と同時期に提供されることは稀です。
本校では、スポーツ、医療看護、福祉、教師、保育士、観光、建築など、進路希望者の多いコンテンツのみを電子書籍で収集しています。学校では、ニーズの高いジャンルかと思いますので、このジャンルのコンテンツの充実や新刊の提供が期待されます。
7.資格検定
資格検定に関しては、ニーズが極めて高い学校と全くない学校とで二極化が見られます。
ニーズの高い学校では、特に【英検】【漢検】【数検】といったコンテンツが求められています。これらの検定試験は、進級やクラス・コース選抜の要件となっており、多くの生徒が利用する可能性が高く、教育効果が十分に見込まれることから、多少の高価格や再購入も問題としないくらいの需要が高いようです。本校では、進級やクラス分けの要件にはなっていませんが、大学入試に有益であることから、級位の取得を推奨し、積極的に電子書籍を購入しています。提供されるコンテンツも比較的充実しています。
一方、全くニーズのない学校では、資格検定の問題集などは生徒個人で準備すべきものとして、紙書籍の収集方針が適用されています。しかし、ライトノベルのように紙書籍では購入しないが、電子書籍であれば購入するケースもあるため、資格検定においても今後利用が増加すれば、積極的な収集を検討する学校も多く見られました。
8.学習・問題集
学習・問題集についても、資格検定と同様の傾向が見られます。
特にニーズが高いのは、【大学入試過去問題集】や【受験参考書】です。問題集を利用する際には、紙書籍を好む意見が多いなか、電子書籍の利点も評価されています。電子書籍は、かさばらず持ち運びが便利で、必要な部分だけを簡単に確認したり、問題を解くことができるため、学習効率が向上します。また、多くの種類の中から自分に合った問題集を選べる点も評価されています。
さらに、電子書籍のメリットとしては、紙書籍のように書き込みや持ち出し、紛失のリスクがなく、常に手元に必要な情報が揃っていることが挙げられます。これにより、教員や生徒がより安心して学習に集中できる環境が整えられる点も、大きな利点とされています。これにより、紙書籍では購入が難しかったが、電子書籍なら購入する学校もあるようです。
デメリットとしては、コンテンツの提供がまだ十分でないことが挙げられます。徐々にコンテンツは増えており、難関校対策向けの問題集も登場しています。特に「赤本シリーズ」は受験生にとって必需品ですが、現時点では取り扱う予定はないようです(以前、出版社に問い合わせをしました)。今後、提供されることを強く期待するコンテンツの一つです。
今回は、比較的ニーズが高い6つのジャンルについてお話ししました。これらのジャンルにおいても、それぞれのニーズに応じた利点がある一方で、コストやコンテンツ不足が課題となっています。次回は、学校図書館でニーズが低めのジャンルについて触れたいと思います。どうぞお楽しみに。