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学校図書館での電子書籍のニーズと課題(3)

電子図書館コラム2022.11.22

これまで、電子書籍に対するニーズやメリット・デメリットについてお話ししてきました。第1回は最もニーズの高いジャンルを取り上げ、第2回は比較的ニーズが高いジャンルに焦点を当てました。
 
今回は、ニーズがやや低めとされる4つのジャンルについてお伝えします。これらのジャンルは、実際にはニーズが低いわけではありませんが、限られた予算の中で優先順位が後回しにされがちなものです。ここでも、電子図書館を導入した学校の活用状況や将来的な利用の可能性について具体例を交えて共有したいと思います。
 
この内容は、私が以前に行ったインタビュー調査の結果に基づいています。2019年に電子図書館を導入している高等学校(中高一貫校を含む)10校を対象に、学校向け電子書籍の利用状況について尋ねました。詳細については、こちらからご覧いただけます。

 

 

 

 

9.漫画・コミック

漫画・コミックに対するニーズは、【学習漫画】と【娯楽漫画】で大きく異なります。
 
学習漫画は、学術的・教養的な内容をわかりやすく描いたもので、その需要は高まっています。特に、活字が苦手な生徒や難解な作品に手を出しにくい生徒にとっては、気軽に読める漫画版が大いに役に立ちます。また、視覚的資料としての価値が高いとの声もあります。本校では、「源氏物語」「人間失格」「オペラ座の怪人」「レ・ミゼラブル」など、授業や芸術鑑賞会で触れる機会がある作品や、教養として知っておきたい文学作品の漫画版を購入しています。
 
これらの漫画は生徒だけでなく教員にもよく利用されており、電子書籍であれば、経年劣化や破損、汚損、紛失の心配がない点も魅力です。特にシリーズものは、欠巻が問題となる場合がありますが、電子書籍であればその心配もなく、積極的に導入しやすくなっています。ただし、学習漫画のコンテンツには偏りがあることが難点です。現在は日本史、世界史、伝記といった分野が中心となっており、古典や文学作品のコンテンツはまだまだ不足しています。
 
娯楽漫画は、学習漫画に比べてやや需要や低い傾向があります。現在、日常生活や社会問題をテーマにしたコミックエッセイや、教養的な内容を含む娯楽漫画が多く提供されています。しかしながら、授業学習に直接関係しないものは学校図書館にはふさわしくないという意見や、漫画に対する抵抗感が依然として根強くあります。また、授業中に漫画を読むことが動画やゲームなどの不適切な電子端末の使用に繋がる可能性も懸念されており、そのため一部の学校では娯楽漫画だけでなく学習漫画の購入も控える学校もあるようです。
 
本校では、単なる娯楽にとどまらず、心を癒したり、好奇心を刺激するような娯楽+αの教育的価値を持つ漫画を選んでいます。近年、科学、歴史、文学、伝統文化、職業、社会問題などを題材にした作品が増えており、教員が推薦したいと考える漫画も少なくありません。これらの作品は、小説版もありますが、個人的には原作漫画の形で提供されることを期待しています。今後、学校向けコンテンツとしてますます注目されるのではないかと考えています。
 
 
 
 
 

10.自己啓発・ビジネス書

自己啓発・ビジネス書は、全体的にはあまりニーズが高くないことがわかりました。このジャンルは、多くの学校があえて選書しない方針をとっているようです。選書の際には、論理的思考力を養うための読み物であることが重視されており、生徒にとって有益な知識は、自己啓発書やビジネス書から安易に得るのではなく、教養的な書籍から独習すべきだという考えが根強いようです。本校もこの考えに同意です。
 
特に、自己啓発本の需要は非常に低くなっています。自己啓発本の内容には、科学的根拠の欠如や個人差による効果の不均等、商業的な要素が強いものなど疑問が持たれるものもあり、必要ないと断言する学校も少なくありません。
 
一方で、ビジネス書については一律に必要ないとは言われていません。特に経営者の著書や、長年読み継がれてきたビジネス書(例:「ドラッカー」などの名著)など、専門書や教養書として役立つものは需要があります。
 
 
 
 
 

11.雑誌

雑誌は本来、非常に高いニーズを持つジャンルですが、優先順位が低い理由には以下のような点があります。
 
– 学校に適した雑誌コンテンツがまだ十分に揃っていない。
– 提供される雑誌の情報が古く、最新の情報が手に入らない。
– 購読を続けるのが難しい、または提供が中断されることがある。
 
現在、本校では「東洋経済」などの経済雑誌、「地球の歩き方」などの旅行雑誌、また「BRUTUS」などのカルチャー雑誌といったコンテンツを購入しています。このほかに、料理、音楽、健康、航空、鉄道、ロボットといった専門的な雑誌もありますが、これらは学校向きというよりは、公共図書館向けのラインナップと言えるでしょう。
 
高校では、「AERA」や「ニューズウィーク」などの時事問題を扱った雑誌や、娯楽・教養的なものとして「ダ・ヴィンチ」(文芸)や「number」(スポーツ)などが求められますが、これらの雑誌は現在提供されていません。特に、メジャースポーツに関する雑誌がほとんど存在しないことは残念です。以前、サッカー雑誌がありましたが、販売中止となり、ライセンス失効後は利用できなくなりました。学校図書館に来るのが難しい運動部の生徒にとって、便利に読める電子雑誌は喜ばれるコンテンツの1つであり、部活動顧問の教員にもよく利用されていました。今後、スポーツ雑誌のバリエーションが増えることを期待しています。
 
提供時期に関しては、バックナンバーが多く、雑誌は情報が新鮮であることが利用価値の重要な要素です。また、雑誌が販売中止になるなど継続購読の難しさもあります。しかし、デメリットばかりではありません。電子雑誌は、紙書籍と比較して書架スペースを取らず、管理が楽であるため、一定の利点があります。さらに、修学旅行などの期間限定の利用においては、コストパフォーマンスが高い場合もあります。最近では、電子雑誌の購入を積極的に検討しています。コンテンツが充実し、提供時期も最近のものが増えてきたので、今後の改善に期待しつつ、様子を見ています。
 
 
 
 
 

12.生活実用書

生活実用書は、必要性が全くないわけではありませんが、選書においてはしばしば後回しにされがちなジャンルです。インタビューの中でもこのジャンルにほとんど触れられていない印象があります。その理由としては、生活実用書が直接的な受験科目や進学・進路に関連するものではないため、優先度が低くなりがちです。中学・高校では、進学や進路に役立つ情報が重視されるため、生活実用書は後回しにされることが多いのです。
 
また、料理や趣味などに関する情報は、無料のウェブサービスで十分にカバーできるため、電子書籍として準備する必要がないと考えられていることも一因です。生活実用書は、紙書籍と比較してもウェブサービスの利便性やコストと比較されることが多く、そのため選定されにくい傾向があります。
 
しかし、日常生活スキルを養うために、授業や学習だけでなく、読書も積極的に活用しようとする学校もあります。こうした学校では、生活実用書の選書が重要視され、ニーズが大きく異なることがあります。予算的な制約から生活実用書が後回しにされることが多いですが、コンテンツの価格やライセンスの改善が進むことで、選書の考え方も変わる可能性があります。将来的には、生活実用書の導入が進むことが期待されます。
 
 
 
 
 
以上、全3回にわたり、電子書籍のニーズやそのメリット・デメリットについてお伝えしました。電子図書館を導入している学校図書館では、どのように電子書籍が活用されているのか、またその導入や運用の参考として、少しでもにお役立ていただければと思います。
 
この内容を見ている事業者様や出版社様にも、学校図書館での電子書籍に対するニーズが伝われば嬉しいです。さまざまな要望等をしておりますが、一つでも多く改善が進むことで、学校での利用がさらにスムーズになると考えています。ご検討いただければ幸いです。